叢雲の向こう岸

あらすじ

普段住む町から車で数時間。あなたたちはそれぞれの事情から夜噛村へ向かう。少しだけおかしな村や人の様子。違和感の中、導かれるようにして、牢の向こうの少年と出会う。恐ろしいほど美しい少年は、あなたたちに頭を下げるのだった。

「ぼくをここから連れ出してほしい」、と。

前情報

このシナリオは3~4人向けのシナリオである。PC同士が知り合いであるとよい。

推奨技能は目星聞き耳図書館と交渉技能。戦闘は展開によってはあるかも。あったら楽しい運転技能。

PLそれぞれにハンドアウトが与えられ、出自などが設定されることもある。そのため、PCは継続よりも新規のキャラクターのほうがいいでしょう。

テストプレイでは、テキセで12時間くらいかかりました。

オフやボイセなら3~4時間くらいでできるのではないでしょうか。


NPC

秋月 ハジメ(朔)

双子の兄。自分もいつかはミツルのようにおぞましい姿になることを予感している。そのため、一度でいいから人間の姿のままで村から外へ出てみたいと思っている。しかしミツルが自分を大切に思っていることも分かるため逆らうことはしない。外部からの協力を求め、数匹のシャンを外へ送った。この村を訪れるように夢を見させている。ハジメは、将来的に自分をアザトースへの生贄にするという契約のもとシャンをつかわせている。

彼こそシャッガイの王である。シャッガイとして、王として目覚める前に人間として村から出たい。また、もし王として目覚めたならば同じく王としての素質があるミツルを本能的に殺してしまうことに気付いている。村を出て、ミツルから離れて、そうして消えること。それだけが彼の望みである。

秋月 ミツル(満)

双子の弟。母が死に、兄を守らなくてはと考えている。ハジメより先にシャッガイとして変容してしまう。ミツルもまた王の候補であるが兄を制してなるつもりなどなく、それよりは美しい姿のままの兄と二人、村で暮らし続けることを求めている。寄生先を求めていたシャンを村に呼び込み、自分たちを守り育てるように指示している。村人にはあくまで人間に見えるようにシャンに指示を出している。が、探索者にはおぞましい姿に見えることだろう。村人には自らを双子の兄だと名乗り、いずれ本物の王となるハジメを敬愛するようにもさせている。幼い考えで村を形作ろうとしているため、財政などは全く考えていない。ので、かなり無理のある環境で村人は生活をしている。光合成のために日中はハジメとともに山の家におり、夜は村人に悪夢を見せる。天気が悪いときは外部の人間にシャンを取りつかせようと山の中をうろうろしている。


導入

PCたちは知り合い同士である。秋から冬にかけて、日の短いころに、野ざら市という市にある山奥の小さな村に行くことになる。それぞれに事前にHOを渡し、このHOが村へ行く理由とつながるため導入は村へ向かうシーンから始めていいだろう。このHOはPLの判断で自由に公開してよい。

「PC1:あなたは10年ほど前にこの村で暮らしていたことがある。隣に住んでいたかわいい双子の兄弟、今頃どうしているだろう?」(兄弟の名前は憶えていてもいいが、どちらが兄でどちらが弟だったかは、いたずらっこだったため教えてもらえなかった、などとするとよい)

「PC2:あなたの友人である「花本」がここ数週間行方不明になっている。人に聞いてみたところ、車でこの村に向かったのが最後の足取りのようだが...」(花本との関係は好きに決めてよい)

「PC3:最近夢見が悪い。「村へ行け」「村へ行け」と声がする。夢の中でたたずむ、あの美しい少年はいったい誰だ? ※あなたはシナリオ開始時に1d6のSAN値を減少させる必要がある」

PLが4人以上になる場合はPC3と同じHOを渡すこと。

村へは車で行くことができる。バスなどは通っていない。駅から車で3時間ほど揺られた先にある、山間にある村。エンドの伏線となるため、道中には湖があるというのも描写しておく。

事前情報

夜噛村(よるかみむら)。村は小さな規模のところであり、たいした特産品などはない。そのわりに若者が多い。ここ数年で急激に若者が増えたよう。村には宿などはないが、お金やものを提供することで村人が泊めてくれるという情報も分かる。

掲示板などで:夢見が悪いと言っていた友人が姿を消した、夜噛村の名前を出していたんだけど何か知らないか、という内容。レスはない。

村についてからどこへ行くかはお任せ。

適宜情報出してください。

村に到着

今日は曇っている。今にも雨粒が落ちてきそうにどんより。天気予報などを見たら明日は晴れるらしい。

PCのうちだれか一人が車を出す。山道を3時間ほど揺られていると、集落が見えてくる。

村の規模について調べた人は目星orアイデア→村に住む人数のわりに家屋の数が多いのではないかと考える。

車を走らせていると、村人とすれ違う。三十代の男性。村に観光に来たなどと話をすると、不思議そうにしながらも村長のところへ行くように促してくる。

車は村の中で置く場所が決まっている。あまり道が広くないこととガソリンを補給することができないため。車を置いてから移動するように話す。

ほかにも村人を何人か見かける。情報通り若い人が多いように感じる。みな朗らかにかかわってくる。

PC1が暮らしていた家は現存するが空き家になっている。

村長の家

村の奥、山の際にある。村長というわりには普通の家屋。

村長は50代くらいの男性。奥さんらしき女性がお茶を出してくれる。泊まる場所を貸してほしいというと、空いている家を使っていいという。何か金か物かもらえるとありがたいと話すが、なくても泊めてもらうことはできる。PC1の生家を使うことも可能。村から人が減っていった時期があるため空き家が多いと話す。

いつからこの村に?→「ずっとこの村で暮らしているよ」

(PC1が何か提案してきたら、あなたにはこの人の顔に見覚えはないと教える)

若い人が多いのはどうして?→「故郷を盛り上げようと戻ってきてくれた人が大勢いるんだ。これからも村を愛して、村に住んでくれる人が増えるといいと思うよ」

(PC2が)花本という人物を知らないか?→「ああ、いるよ。知り合い? 彼のことは小さいときから知っているけど、君みたいな知り合いがいるなんて初めて聞いたよ」(もちろん違う。記憶が改ざんされている)

双子がいますか?→「いるけれど、会うのはタイミングが難しいかな。双子の兄のほうはこの村で一番の権力があるんだ。私たちは王と呼んでいるよ」

何か見るものとかある?→「特にないかな。あ、獣が出るから山には入らないほうがいいと思うよ」

いくらか話をすると、用事があるからと家から出される。何日いてもいいからゆっくりしてという話。空き家で料理などできるから、畑をしている村人や風見から食材を買うといいとも話してくれる。(聞かれたら答えてもよい。空き家であるのに電気もガスも水も通っている)

村長の家から出ると、探索者がいなくなったのを見計らって中から声がする。女性と男性のもののよう。

聞き耳→「王は今日は......」「天気が悪いから...出かけない...」

駐車場

車が置かれている。大きな門があり、中に入るためには門の鍵をあけなければならない。一番近くの家に住んでいる青年に開けてもらうことができる。(村に馴染むまで村から脱出させないため移動手段を断たせる。そもそも車に乗れない環境であるのになぜ車がこうもあるのか?と不思議に思ってもらえるかも)

PC2は目星orアイデア→見覚えのある車がある。花本のものであるが、長く使われていないのかボロボロになっているのが分かる。

夜に侵入することができるが、初日の夜にはすでにガソリンが抜かれている。

双子の家

PC1の家の隣。空き家になっている。

目星orアイデア→ほかの家と比べて大切にされている感じがする。

家の中には机と本棚がある。

机に目星→机の下に写真が一枚落ちているのを見つける。女性と少年二人が笑顔で写っている。PC1は見覚えがある。隣に住んでいた家族だ。少年二人は顔がそっくりで、これを見たPCは双子であると確信するだろう。

PC1のみアイデア→あなたは思い出す。双子はとても仲がよく、特に弟は兄へとても強い愛情を抱いていたようだった。(双子の名前などがPLに知られている場合、弟が兄に、ではなく、双子の片方は兄弟にたいして強い愛情を~と表現するといいかも。兄と弟どちらがどちらだったかわからないように何か工夫してください!)

本棚に目星→基本的には普通の本。その中に日記を見つける。

双子の弟の日記のようだ。内容から考えると、年齢は十代前半くらいだろうか。母親と兄と、ささやかながら幸せに生活しているのがわかる。数年前のある日付から悲壮感が漂う。以下、気になる文面。

「母さんが死んだ。治せなくてごめんねって町の先生は言っていた。ぼくたちのことは村の人たちが育ててくれるけど、不安みたい。ぼくがいるよって、ぼくが守るよって、何度も何度も言ってるのに、笑ってくれない」

「最近いやな夢ばかり見る。頭がいたい。心配してくれるのはうれしいけど、ぼくも病気だったらいやだな」

「最近の口ぐせは、「村から出たい」。ずっと遠くを見ている。村のことも好きなのに、ぼくとも一緒にいたいって言ってくれるのに、どうしてだろう。ずっと今のままでいるのが幸せなはずでしょ?」

「夢を見た。わかった。ぼくたちは人間じゃない。それにいつか王様になる。

いやだ。この村で、人間のままずっといっしょがいい。いやだ。いやだ。いやだ」

「もう時間がない。約束したよね おにいちゃん 守るよ」

以下、字なのか落書きなのかわからない跡が残っている。

(ミツルの日記。どちらが兄で王なのかPLに考えてもらうため)

山はたいして深いわけではないので迷うことはない。

もし足跡などを探すならば目星→人が何人か連れだって歩いた跡がある。つい最近ついたもののようだ。(持っているPCがいれば追跡やナビゲート振らせてもいいかも)

跡を追っていくと、川が流れているのを発見する。その近くに小さな家が建っている。鍵がかかっている。もし二日目昼間に来た場合、運よく双子は散歩に出かけていて鍵が開いていることにしてもよい。ただし急がせるように。

指定があれば。家からは隠れた場所が広く開けている。この下に、もともとの住人でシャンによって発狂し、SAN0になった人たちが埋められている。殺された跡などはない。掘り返すならばスコップなどが必要。村人に提案すれば貸してもらえるだろう。掘ると白骨死体が出てくる。SANC1/1d4 結構な人数である。PC1は村人の死体であるという考えに至り、さらにSANC 1/1d4

外から目星→よくは見えないが、どうやら屋根がガラス張りになっているらしい。外観は、こんな山の中にあるにしては綺麗だし立派に見える。(普段ハジメとミツルが昼間にいて光合成をしている家。初日は曇っているため誰もいない)

鍵開けに成功した→中に入ることができる。

布団が敷かれている。テーブルと本だながある。

布団に目星→綺麗に整えられている。誰かが横たわったこともあるのだろう。しかしふかふか。

テーブル→メモが何枚かおかれている。とてもつたない字で読むことはできない。一方的に書かれているものであることが分かる。アイデア→双子の家にあった日記の最後、落書きのようなものと似通っている。

本棚→小説が多いよう。暇つぶしになるようなものが結構な量ある。ラベルは、この村にある書店、夜噛村書店のもの。一冊だけ日記がある。内容は前半は弟と母との平和な日常であるが数年前の日付から変化がある。以下内容。

「母さんが死んだ。写真もない父さんとは会えたのかな」

「母さんが死んでから、これまで以上にべったりになった。同じ年なのに、兄ちゃんを守るよなんて言う。バカだな、何から守るんだよ」

「化け物」

「ぼくもああなるのか?」

「あれは誰だ? あれは? あれは? あれは?」

「ぼくもいつかはこうなると言う。そうしたらぼくが王になるって。ぼくこそが王だって。それまで大事に守るんだって、いっしょにいるんだって。 こわいよ」

「どうか どうか 外にだして」

山から村に降りていこうとするところで目星。

成功→何か大きな虫のようなものが見えた気がする。

お店

野菜や米などは村でとれるが、それ以外のものは隣町から商売に通っている青年、風見から買うようになっている。風見は村の中心で屋台のようなものを出し、そこに村人が買いに来る。

風見は完全に外部の人間。大きなワゴン車でここまで来ている。車も好きに走らせていいことになっている。

村の人たちどう思う?→「いい人ばかりですよー。でもちょこちょこ人が増えてたり、逆に会えなくなった人がいたりもするんですよね。こういった村が廃れちゃうのは仕方のないことなんでしょうけど」

本の話を聞く→「ああ、たまに夜噛村書店さんに新しい本を売ることもあるんです。村長さん以外にも王様?って人がいるらしいですね。俺は会ったことないんですけど、村の人たちはすごく尊敬してるみたいですよ」

いつくらいまでいるの?→「朝は10時くらいに来て、6時には帰りますね。その間に買い物に来てくださいー。明日もくるんで!」

夜噛村書店

小さな書店。漫画とか雑誌とか。古いものが多く、あまり入荷はしていない様子。

山の家にある本はここで買われている。村人が買ってきて、ハジメの暇つぶしのためにミツルがプレゼントしている。

図書館→手作りの童話の本を見つける。作者はわからない。数年前に作られたもののように思える。(シャンが見せた幻想が頭から消えなかった誰かしらの人物が描いた、ハジメとミツルの物語)

「昔々のお話です。その虫は住むところを探して旅をしていました。旅して旅して旅して、ある女性と出会います。虫と女性は結ばれ、それはそれはかわいらしい子どもが生まれました。虫はその子どもを見て、その子はいつか王さまになるだろうと思いました。虫は新しい住処を求め旅を続けます。子どもは母親とともに静かに暮らします。いつか滅ぼすだろう村の中で、静かに静かに暮らします。いつか王さまとして目覚めるときまで」

店員と話ができる。

新しい本はあまりないんだね→「そうですねえ。あまり本を読む人がいませんから。食べ物とかはさすがにないと困るんで、隣町から運んできてもらってますよ」

いつからここで暮らしてるの?→「いつだったかな? もうここが故郷ですからねアハハ」

花本って知ってる?→「知ってますよ。今は畑仕事してるんじゃないかな」

花本のところ

花本を探すと、畑仕事をしているのを見つける。PC2が声をかけても首をひねる。

花本!→あんた誰だっけ?

友人だっただろう→俺はずっとこの村に住んでるよ。あんたみたいな友達いなかったと思うけど...

友人が自分のことを忘れ、出自までわからなくなっている事実にPC2はSANC 0/1

無理に思い出させようとすることはできない。精神分析などで、本人に異常なところはないようであるとわかる。心理学も同様、本人は何も違和感を抱かず生活している。

(エンディングの前に連れに来ることが可能である。PC2が熱心にRPしたり交渉技能をう振るなどで同行してくれるかもしれないが、あくまで彼の頭にはシャンが寄生しているということを踏まえて動かす)

夜、探索者たちは眠りにつく。PC1とPC2は何事もなく眠りにつくが、PC3は目が覚める。頭の中で「たすけて、たすけて」と声がするのだ。

眠ろうとしてもどうしても眠れない。どころか、体が勝手に起き上がり、意思に反して外へ向かおうとする。自分の体が勝手に動くことにSANC 1/1d4

玄関や窓から外の様子をうかがうと、何か村の雰囲気が異様なことに気が付くだろう。PC1やPC2を起こしてもよい。

家から出ると、近くの家から人の声がする。その家だけではない。村中の家々から、唸るような声がする。苦しんでいるような声がこれほどにするという事実に恐怖し、SANC 1/1d3

PC3は助けを求める声がどこからするのかがわかる。(頭の中のシャンがハジメのもとへ導こうとしている)声に従って進んでいくと、村長の家に着く。この家からもうめき声が聞こえる。裏口の鍵は開いているため中に入ることができる。

PC3は、迷わず家の奥の仏間へ進むだろう。そこには地下へ降りる階段に続く扉がある。

朔との出会い

村長の家で地下へ入ると、そこそこ広い空洞になっている。手前の空間と奥の部屋は檻で区切られており、檻の向こうには住み心地のよさそうな部屋がある。そこには、探索者を見つめる一人の少年がいた。

少年は美しい見た目をしている。十代後半くらいだろうか、艶やかな黒髪と同じく黒い大きな瞳を持ち、じっと探索者たちのほうを見ている。

目星→清潔な格好をしている。こんなところに閉じ込められている割には待遇がいいように思える。

檻の扉には鍵がかかっている。かなり古い型の鍵で鍵開けは不可。物理で壊すことも可能であるが少年に止められる。(鍵を開けることでミツルにばれる可能性があるため。探索者たちを味方にしなければ脱出は叶わない)

少年は「助けに来てくれたんだね、ずっと待っていたんだ」とほほ笑む。会話が可能。

誰?→「朔(ハジメ)。この村出身で、年は......ええと、忘れちゃった」

なぜ閉じ込められているの?→「ぼくはこの村の王の弟なんだ。閉じ込められているというよりは、守られている、のほうが正しいのかな」

王って?→「ぼくの兄。とても強いんだよ」

待っていたってどういうこと?→「ずっと祈っていたんだ、助けて助けてって。ぼくをここから連れ出してくれる人が来てくれるようにって」

村ってどうなってるの→「ありていに言えば、操られてるんだ。変なことがたくさんあるでしょう? でも、そろそろ壊れるよ。無理ばかりしているから」

ハジメは双子の弟だと名乗る。双子の兄が王であるという話をPCたちが知っていることを危惧して。無害な存在であると思われることで逃がすのに協力してもらえるだろうと考えたため。

PC3の頭にシャンを寄生させていることに関しては問い詰められない限り話さない。

ハジメは探索者たちにお願いをし始める。「ぼくは記憶にある限り一度もこの村を出たことがない。ここから連れ出してほしい」と。

日が出ている間、山にある家に兄とともに行くのが日課。明日は晴れるはずだから必ず行くことになるだろう。山から下りてくるときに自分を連れて逃げてほしい、と話す。

(行くときにでも構わないが、朝早いことと脱出経路の確保のことから断る方がよい)

了承すると首からネックレスを外して探索者に渡す。「母の形見なんだ、幼い時からずっと持たせてくれていた。......待っているから」とほほ笑む。

PC1はアイデア→双子の母は、ネックレスを兄に預けたと言っていなかったか?と思い出す。

拒絶するとどうかお願いだと懇願する。それでもだめならばPC2を見据えて話を始める。

「この村に来てからおかしなことはなかった? この村出身なはずがない人が、まるで昔からここで暮らしているような顔をしている。そんなことは、なかった? 彼らはぼくの兄から操られているんだ。このままだと、二度と帰ってくることはないよ。ぼくを連れ出してくれるなら、この村人を救う手助けもしてあげる」

了承したならばネックレスをくれる。

それでも拒絶する場合、とても残念そうに引き下がる。

(PC3を後ほど動かすことができるためそこまで落胆しているわけではない)

翌朝

家に戻り眠りにつけば何事もなく朝になる。ハジメは日が昇ると同時にミツルに連れられて山の家へ行っている。

村人たちもそれまでどおりに生活をしている。夜の話を聞くと、誰しもが「夢見が悪いんだ。何の夢かは覚えていないんだけど」と答える。

ハジメのことを聞いたとしても、王の弟のことは村人の誰も詳しくは知らない。王は弟さんととても親しい、見かける時はいつも一緒にいる。夕方になるとともに帰ってくると教えてくれる。

二日目も問題なく村を探索することができる。夕方にハジメが戻って来るまでに村から脱出する方法を探る必要がある。

村にある車は駐車場にまとめられており、どれもガソリンが抜かれていたり一部壊れていたりして乗ることはできない。何か提案や、機械修理などの技能によって動かすことはできるかもしれない。

駐車場の門の鍵を持っている青年は、新たな村人候補に車を渡すまいという考えのミツルにより、簡単に鍵を渡してくれないだろう。かなりマイナス補正のついた交渉技能か、あるいは意識不能にさせるなどで奪うことができるかもしれない。

最も簡単なのは風見のところへ行きワゴンカーに乗せてもらうことである。車が壊れたなど簡単な理由と交渉技能で風見は納得してくれるだろう。ただし、口止めをしておかなければ彼の口から村人に、探索者たちが村を出ようとしていることが知れてしまう。最後の逃亡に、村人からの邪魔が入るなど起こりうるだろう。

夕方

日が暮れると、(風見がいる時間帯である必要があるため、18時より前)村人たちが山のほうを見て頭を下げる。彼らが意識的に行っているわけではないが、何かが来る予兆であることはわかるだろう。

山から二つの人影が下りてくる。一つは小さな青年であり、探索者には昨夜であったハジメであることが分かる。その彼を守るようにして歩いている姿に、探索者たちは衝撃を受けることだろう。

体の大きさこそ普通の人間と大差ない。しかしその影が近づくたびに圧倒的に人間ではない存在であることが分かる。目は虫特有の複眼であり、夕日の赤を反射している。鼻と耳はなく、口は短い口吻のみである。衣服から見える肌は玉虫色であり、そして明らかな異常として、丈夫な羽が背中から生えていることが分かるだろう。このおぞましい姿を見た探索者は1/1d8のSANC

ハジメは探索者の姿を見て少しだけ頬を緩ませるだろう。何事かをミツルに向けて呟き(聞き耳させてもよい。「ごめん」と言っている)、次の瞬間山の向こうから大量のシャンがミツルめがけて押し寄せてくる。

探索者はそれを、鳥だと思うだろうか。大きく、空を飛ぶそれらは空を覆いつくすほどであるが、じきに何であるかがわかるだろう。多くの足、多くの口。そして固い翼で空を駆けるそれは、地球上に存在するはずのない恐ろしい昆虫である。0/1d6のSANC

ミツルがシャンに覆われたところで、ハジメがこちらに駆けてくるだろう。早く村から出ようと訴えかけてくる。

もしハジメと出会ったときに最後まで断った場合、ハジメがこちらに駆けよってくるより前にPC3が動き始める。それまでの意志とは関係なしに、彼を助けなければならないという考えに囚われ、ハジメを連れて逃走しようとする。他PCは彼を止めてもいいし、ともに逃げてもよい。

逃亡エンド

移動手段を手に入れていた場合、車のところに行くまでにミツルに追い付かれることはないだろう。ただし、事前に逃亡しようとしていることが村人にばれている場合は、彼らが立ちふさがるかもしれない。あくまで取りつかれているだけのただの人間であるので戦闘力は強くはないが、万が一殺してしまった場合などはSANチェックが入るだろう。

車に乗ればあとは走り抜け逃げることができる。途中で運転技能を振らせてもいいかもしれない。

ハジメは少し後ろを振り返るかもしれないが、初めて村から出ることに胸を躍らせているだろう。

車を走らせると、湖沿いに出る。月が明るい夜であり、ハジメは車から降りたがる。村以外の場所を歩くことができる喜びを語り、探索者に感謝を伝える。

そして、自分が今後シャッガイとして目覚めてしまうこと。王というのは自分のことであり、このままではいずれ他のシャッガイを率いて人間に害なすことがあるということを話す。(アザトース召喚の生贄になることは伝えない。探索者がそこまでのことを知る必要がないからであるが、もし敏い探索者が詰め寄ることがあれば匂わせてもよい)そのため、変容の前に自分を始末したほうがいいと言う。PC3にシャンを寄生されていることも明かすだろう。

ハジメをどうするかは探索者の判断に任せる。探索者の手で殺すか、それでも生かして連れ帰りシャッガイとして目覚めるまでともに過ごすか、あるいは自ら死なせるか。

最後の選択をした場合、ハジメは湖に身を投げる。少し経つとミツルが探索者に追い付き、しばらく呆然としたのちハジメを追って身を投げる。王の消えた村をシャンは見捨て、村人は全員もとに戻るだろう。

相打ちエンド

逃げ切れなかったり逃走経路を確保できなかった場合、ミツルが追い付いてくる。

ミツルは言葉は発さない。頭に直接、しゃがれた声で「兄ちゃんを返せ」と話しかけてくる。ハジメを返すか拒むかで分岐。

ハジメをミツルに明け渡した場合、ハジメはこれ以上抵抗しない。おとなしくミツルに連れられ村へ戻ることを決める。二人の関係性を考えて会話をしてもよい。PC3のシャンは取り除いておくことを伝えると安心できるだろうか。

探索者たちはすぐに村から出ていくように言われる。抵抗は無駄だろう。

探索者たちは日常に戻り、村へまた向かうことはできない。しかししばらくして、その村が村人ごと消えたことを知るだろう。双子の間で何があったのか、探索者たちは知ることはできない。

ハジメを明け渡すことを拒んだ場合、突然ハジメが苦しみ始める。しばらく苦しみの声を上げたのち、肌が破れ、青年の体からミツルと同じ昆虫人間が姿を現す。その恐ろしい変容を目にした探索者は1/1d6のSANC

ハジメは本能的にミツルに襲い掛かる。王は一人しか存在してはならない。ミツルは抵抗なくハジメに殺される。

ハジメの願いは叶わなかった。彼は弟の亡骸を抱え、探索者に別れを告げる。仲間を探して遠くへ向かう、村人はミツルのはなったシャンから解放されると話す。

そうして昆虫人間の王は、人間としての生を満喫することなく姿を消すのだった。

どのエンディングでも、ネックレスは何かかっこいい演出に使ってください。特に何かあるわけではないですがアーティファクトとかにしてもいいかも。

シナリオについて

ハンドアウトのあるシナリオがやりたかった!

座敷牢の美少年がやりたかった!

双子の入れ替わりものがやりたかった!

メリーバッドエンドが好きだ!

そういうあれでした。

ハンドアウトによって全員が村にかかわる必要性が出てきます。また、PC2とPC3あたりでもしかしたらPvP的なことが起こる可能性があります。(ミツルを生かしておくと村人や花本が寄生されたまま。ハジメを生かしておくとPC3は寄生されたまま。あるいはハジメを殺そうとするとPC3は守ろうとしてしまう、など)

タイトルは「月に叢雲花に風」から。

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