高き梢の花を手折りて
あらすじ
ダストハイムの小領地、"テオフラス"。かの土地に、貴卿らは足を踏み入れる。各々の目的を胸にしつつ、騎士としての務めを果たそうと民の様子を見守り歩を進める。肥えた土地を持ったこの地は、穏やかな人柄の民が多いと聞く。しかしすれ違う民の表情は、暗く重たい。
疑念を抱いた貴卿らの耳に、突如悲鳴が届いた。地面に座り込んだ民の指さす先には、いくつかの人間――いや、それはもはや人とはいえなかった。溶けた肌に歪んだ骨格。もはや意味をなさない咆哮を上げるそのようなモノを、貴卿らは目にしたことがない。
しかし、ソレが何であるのかなど関係あるまい。民が叫び、その身を傷つけ、地が汚されようとしているのだ。騎士として見過ごすことができようものか。
貴卿らは武具を具現化し、民を守ろうと地を蹴る。
前情報
PL人数:3人
所要時間:テキセで8時間ほど
ノブレスストーリアのデータを使っています。
【真相】
スーティ卿は自らの領地に住む女性、フロリアンに恋していた。時折村に降り遠目に見るだけでは飽き足らず、彼女を侍女として城に召し上げるようになったが、フロリアンに卿の想いが届くことはなかった。従順に仕事に取り組めど、スーティ卿に対し同じ感情を返すことのなかったフロリアンは、無理やりに叙勲されることを恐れついに自害してしまう。恋に心狂わせたスーティ卿は、拒絶され逃げ去られたことに激しい怒りと喪失感を抱く。彼女がいなくなったことを受け入れられぬまま、表向きは賢く気高い領主の顔を保ち、裏ではホムンクルスとしてフロリアンを生き返らせる術を探すのであった。
知識を求めるうちに出会った"詭弁卿"ペトロス・グルーンツヴァイクにホムンクルス生成の方途を教えられ、フロリアンを作ろうと実験を繰り返す。しかして、実験が成功することはなかった。当然のことだ、死んだ人間が生き返ることなど、あり得べからぬことである。何度失敗しようと、何体のホムンクルスを地下に収容しようと、スーティ卿は実験をやめない。その行為が自らを渇かせていることに気付いていようとも。
その渇きに気付いている人物は、彼女自身のほかにもいる。スーティ卿の実直さ、聡明さに惹かれ彼女の近衛となった、ヴィルヘルム卿である。生前のフロリアンも、彼女に恋い焦がれ少女のように可憐にほほ笑むスーティ卿のことも忘れることのないヴィルヘルム卿は、スーティ卿の狂った所業を止めることができないでいた。道を踏み外した主を地獄へ送る力を持ちながら、彼の葛藤は潰えない。いつか、誰か。彼女の狂気に終止符を打ってくれないかと、願いは絶えない。
そしてついに、事は起きた。かの領主、スーティ卿は堕落し、ホムンクルスは彼女の求める姿を取る。"失敗作"は地下から溢れ、民を襲う。テオフラス領は、ホムンクルスによって狂乱に陥ろうとしていた。
【HO】
PC1
消えざる絆・フロリアン【恋か欲】 推奨の道:遍歴、狩人
貴卿は以前、テオフラス領を訪れたことがある。その折に美しい女性に目を奪われ、今日まで頭から離れたことはない。あの時の女性に、一目会いたい。そんな思いで改めてこの地を訪れた。そして貴卿は出会う。思い出の女性に瓜二つな、フロリアンに。
PC2
消えざる絆:スーティ【恋か信】 推奨の道:領主、賢者
貴卿とスーティ卿は長きにわたる友人である。かつて共に戦場を駆け、お互いの武勲を称え合ったものだ。彼女が領主となってからは顔を合わせることも少なくなったが、便りを送り合うようにしている。そんな彼女が、騎士を叙勲するという。近衛こそおれど叙勲を施したことのないスーティ卿を祝うため、貴卿はテオフラス領を訪れる。
PC3
消えざる絆:ヴィルヘルム【友か敬】 推奨の道:近衛、遍歴
貴卿はヴィルヘルム卿と、民であった頃の知り合いだ。苦痛を伴う民の生活を乗り越えた貴卿らは、異なった境遇で騎士となった。仕える相手は違えど絆潰えぬ友と思っている。久方ぶりに連絡をとったヴィルヘルム卿は、貴卿に会いたいと零しているようだ。幼き頃のように言葉を交わし肩を抱き合おうと、貴卿はテオフラス領へ馬を向ける。
【NPC】
領主
スーティ・テオフラス・フォン・ダストハイム 魂風卿
燃え上がる炎のごとき赤い瞳。親しみを感じる栗色の髪。少し目立つ犬歯。
妖精の導き 裏切りの予言 堕落の共鳴
叙勲年齢25 騎士歴80年
近衛
ヴィルヘルム・ラインボルト・フォン・ヘルズガルド 朝凪卿
猫のような金の瞳。しっとりと濡れた黒髪。いかめしい顔つき。
野良犬のごとく 献身の誓い 賢者の予言
叙勲年齢19 騎士歴18年
ホムンクルス
フロリアン・メス 淡雪卿 とつけられる予定だった
宝石のごとき青い瞳。闇に映える白い髪。常に濡れたような瞳。
【序の幕】
【口上】
「ダストハイムの小領地、"テオフラス"。かの土地に、貴卿らは足を踏み入れる。
各々の目的を胸にしつつ、騎士としての務めを果たそうと民の様子を見守り歩を進める。
肥えた土地を持ったこの地は、穏やかな人柄の民が多いと聞く。しかしすれ違う民の表情は、暗く重たい。
疑念を抱いた貴卿らの耳に、突如悲鳴が届いた。
地面に座り込んだ民の指さす先には、いくつかの人間――いや、それはもはや人とはいえなかった。
溶けた肌に歪んだ骨格。もはや意味をなさない咆哮を上げるそのようなモノを、貴卿らは目にしたことがない。
しかし、ソレが何であるのかなど関係あるまい。
民が叫び、その身を傷つけ、地が汚されようとしているのだ。騎士として見過ごすことができようものか。
武具を手にする貴卿らの背後より、一人の騎士が声を上げる。
「そこにおられるは名のある騎士の方々とお見受けいたします。どうかこの地を荒らす異形のモノを排除する手助けを願いたい!」
艶やかな黒髪を汗で濡らし、凛然とした騎士は刃を具現化する。
貴卿らは彼に続き、脅威を取り除くため駆けだすのであった。」
PCの紹介はここで済ます。
PC同士の絆をとり、戦の幕へ。
【戦の幕】
【NPC】
[端役]腐りかけたモノ×4(兵士役/p264) 庭園×2 宮廷×2
ヴィルヘルム(味方役/p264)玉座
[脇役]人の形をしたモノ(異獣/NSp124) 玉座
存在点:10点
行動値:24点
【壁の華】
腐りかけたモノ:溶けて消える。捕縛しても息絶える。
ヴィルヘルム:PCからであれば民の誘導に向かう。NPCからであれば、傷を負い戦線離脱する。
人の形をしたモノ:咆哮を上げ溶けてなくなる。
【絆奏】
人の形をしたモノ:【怒】
ヴィルヘルムはPC3を見つけると若干表情をこわばらせる。しかしすぐに引き締め、共に敵を討とうと告げるだろう。
PC1は人の形をしたモノに既視感を抱く。しかしその感覚はすぐに消え、戦いに専念せざるを得なくなるだろう。
人の形をしたモノは意味をなさない言葉を発するのみで、PCもNPCも関係なく襲い掛かってくる。
【口上】
「人の形をしたモノは、肉体を腐らせ消滅する。民はようやく家屋の影から顔を出し、安堵に胸をなでおろしている。
民の様子を確認してから、騎士は貴卿らに頭を下げる。
「民を守ってくださり、感謝いたします。私はこのテオフラスの地の領主、スーティ・テオフラス・フォン・ダストハイムの近衛をしております、ヴィルヘルムと申す者。皆様のお力添えによりテオフラス領の民は守られました。これより主の城では叙勲式が行われます、どうか皆様へ感謝をお伝えしたく、城へ来ていただきたいのですが、いかがでしょう?」
城を訪ねるのは貴卿らの目的からそう外れてはいまい。どうかと頭を下げるヴィルヘルムの言葉もあり、貴卿らはテオフラス城へ向かい歩を進める。」
道中、ヴィルヘルムはPC2に主が出迎えるよう命じたと話す。スーティがPC2に会いたがっていることを伝える。
「貴方様がPC2様ですね。スーティ様から何度も武勲を語り聞かせていただきました。本日は貴方様をご案内するように命を受け、この場に出向いたのです」
【常の幕】
【口上】
「訪れたテオフラス城では、今まさに叙勲式が始まったところであった。華やかなダンスホールではスーティ卿に近しい民や、スーティ卿の知り合いなのであろう騎士が談笑をしている。
ダンスホールの前方では栗色の巻き毛を結い上げ、炎のように赤い瞳を蕩かせながらほほ笑むスーティ卿がグラスを傾けている。
隣に立つはこの世のものとは思えない美貌の女性。初雪のような白い髪が、ふわりと白磁の肌にかかり、潤んだ青い瞳がその隙間から覗く。
彼女こそが此度叙勲を受ける民であろう。」
PC1は彼女に見覚えがある。確かに、貴卿が恋い焦がれ夢見てきた女性その人に相違ない。記憶と違わず美しい姿に貴卿は言葉を忘れ、そうと思わずとも薄らいでいた情熱が胸に戻ることだろう。
「ヴィルヘルム卿は、ダンスホールを進む。
ホール中の騎士、民からの熱い視線が貴卿らを焼くことであろう。
立ち姿を一目見てわかるほどの剣の腕を持ち、また秀麗な姿の貴卿らには、当然憧憬と賞嘆を向けられるのである。」
【NPC】
[脇役]ヴィルヘルム(好敵手/p255) 庭園 存在点:4点 行動値:12
[脇役]フロリアン(異獣/NSp124) 宮廷 存在点:4点 行動値:12
[脇役]スーティ (助言者/p255) 玉座 存在点:4点 行動値:12
【壁の華】
ヴィルヘルム:叙勲式を訪れた客の相手をすることとなり、離れる。
フロリアン:衣装替えがあるからと奥に消える。スーティについて知られている場合は、彼女に連れていかれる。
スーティ:フロリアンの衣装替えがあるからと奥に消える。彼女の企みが知られた場合は、フロリアンをつれ地下の隠し部屋へ向かう。
【場】
庭園:城の庭。小さな規模であるが、整えられた心の落ち着く場所である。ベンチが設置され、ここで語らうこともできるだろう。
宮廷:ダンスホール。集められた民が談笑している。あちらこちらからグラスを合わせる音や、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
玉座:控室。本日の主役であるフロリアンのために用意された部屋。
【絆奏】
人の形をしたモノ:【怒】
【ヴィルヘルムとの会話】
庭園で新たな客を迎え入れていたヴィルヘルムは、女中に客を任せ貴卿を振り返る。かすかな笑みを口にはき、頭を下げる。
PC3の目には、彼が何か思い悩んでいるように見える。
PC1、PC2へ
「先ほどは本当にありがとうございました。後ほど我が主からもご挨拶があるでしょうが、私からも感謝の言葉を述べさせてください」
「改めまして、朝凪卿と呼ばれております、ヴィルヘルム・ラインボルト・フォン・ヘルズガルド。この城で、スーティ様にお仕えしております」
PC3へ
「ああ、お前か。久しぶりだな。私の我儘を聞いてくれて、感謝している。語り合いたいことは多々あれど、今日はこのとおり忙しくてな。あまり時間がとれないかもしれないが、ぜひ楽しんで行ってくれ」
質問に対する返答は以下
スーティ卿はどんな人?→「賢く気高い、尊いお方です。騎士としての誇り高く、弱きを助け敵を切る。スーティ様の太刀筋は、本当に美しいのですよ。まこと、これ以上ないほどの主です」
フロリアンはどんな人?→「とても美しい方ですね。これから共にスーティ様の手足となり働くのですから、楽しみです」
スーティ卿とフロリアンの関係は?→「フロリアンはもともとこの領地の村に住んでいたのですが、スーティ様の目に留まり召し上げられたのです。しばらく侍女として城に仕えておりましたが、今回叙勲の良き日を迎えることとなりました」
(PC1より)フロリアンは何年も前と姿が変わらないのでは?→「......それは、彼女の親類なのではないでしょうか? 小さな村ですので、そのようなこともあるかと」
以下、PC3から言い出すのが自然であるが、RPによってはPC1、PC2からも可能。敬語になおすこと。
何か悩みがあるのでは?→「さすがだな、親友。お前の目に誤魔化すことはできないか。......そうなんだ。どうしようもなく、苦しいんだ」
「スーティ様のことだ。あのお方は、......変わられてしまった。賢く気高いのは変わりない、相変わらずお美しく、快活で。けれど、フロリアンと出会ってからは......」
「スーティ様は、心底フロリアンに恋していらっしゃるのだ。あのお方が少女のように頬を染められるのを、私はフロリアンの前以外で拝見したことがない」
「それは、責められることではない。騎士が恋い焦がれ叙勲を行うのは、珍しいことではあるまい。だが、......」
ヴィルヘルム卿は口を閉じ、深く深く溜め息を吐く。
「とにかく、この叙勲式の間にまた話させてくれ。それでまだ間に合う。私の仕事が終わり次第、お前のところへ向かおう。できるならば、お前と共にいた騎士殿も共にいてもらえるとありがたい」
PC1のかかわりなどで、フロリアン=異獣であると確信したならば、フロリアンがすでに死亡しておりスーティがそれを蘇らせようとしたことなどを話してもよい。
【フロリアンとの会話】
フロリアンは、淡く輝く真白のドレスを身にまとい、ダンスホールの前方で椅子に腰かけている。時折話しかけに来る者には微笑みかけ、一言二言会話をしているようだが、あまり盛り上がっているようではないようだ。
貴卿が近づくと、どこか焦点のあっていない目で微笑む。
はじめまして→「はじめまして。わたしは、フロリアン・メス。これからこのお城で、スーティ様の近衛として騎士の道を歩んでいきます。以後、お見知りおきを」
スーティとはどういった関係?→「スーティ様はわたしのことをとても大切にしてくださるの。そばにいつもいてほしいのだと仰ってくださいました。わたしはスーティ様の願いのためにも騎士になるのです」
ヴィルヘルムはどんな人?→「ぶっきらぼうなところもありますけれど、優しい方ですわ。スーティ様もとても信頼していらっしゃるみたい。同じ近衛として、親しくしていきたいです」
(PC2より)君と出会ったことがある!→「まあ、そうでしたか? すみません、わたし、覚えていなくて...。どういった関係の方でしたでしょう?」
(そもそも見かけただけなため覚えていないのだが、そうでなかったとしても記憶がない)
しばらく話していると、彼女のもとに民が訪れる。どうやらフロリアンの知り合いであるらしい。
「フロリアン! 騎士にしていただけるんですって? あなたは昔と変わらず器量よしで、心根も優しいし、素晴らしい騎士様になれると思うわ!」
「あら、ありがとう。これからも努力していきますね」
「それにしても、あんなに城に行くのを嫌がっていたのに、気持ちは変わるものね」
「ええ。スーティ様にとてもよくしていただいたものだから」
「......いやだわ。そんな、かしこまった口調はやめてよ。叙勲の前までは、騎士様ではないのでしょう?」
「けれど、これもけじめですから」
民と話すこともできる
・フロリアンは数年前に召し上げられ、それからしばらくは姿を見ていなかった。(PC1とはその前に出会っていること)
・三か月前に叙勲を受けるという知らせが村に入った。(腐りかけたモノが現れ始めたのも三か月前。スーティの失敗作の管理が雑になったため)
・相変わらず若々しくて美しい。
【スーティとの会話】
スーティ卿に挨拶をしたい旨を告げると、騎士様ならばとフロリアンの控室へ通される。美しく整えられた部屋には真新しいドレスが置かれ、その裾に満足そうに触れるスーティ卿と顔を合わせるだろう。彼女は貴卿の姿を見止めると、一瞬驚いた顔をするが、明るく頬をほころばせる。
(PC1、PC3にたいして)
「ああ、はじめまして。私はスーティ・テオフラス・フォン・ダストハイム。魂風卿と呼ばれることもあるわ。どうぞよろしく」
「この度は、我が領地の民を守ってくださったこと、心から感謝いたします。貴卿らのおかげで、尊い民の命が失われずに済みました。ぜひ、此度の式でもてなさせていただきたく思います」
フロリアンとの関係は?→「村で見かけて、一目で騎士の才があると思ったの。気高いまなざしと慈悲の心。ぜひそばで私を支えてほしいと願ったわ。そしてその願いが叶うのだから、本当に喜ばしい。異形が現れているし、きっとよい力になってくれるわ」
「今日は叙勲式と名付けてはいるけれど、お披露目会のようなものね。叙勲は後ほど行うの」
ヴィルヘルムはどんな人?→「もったいないくらい、誠実で力のある騎士だわ。近衛として城にいてくれるだけで、人々の士気がちがうもの。私を主と慕ってくれて、嬉しい限り」
(PC2にたいして)
「久しぶりね! 貴方の武勲はこの地にまで届いているし、城の者にも聞かせているの。我が友として誇らしく思っているわ。叙勲式にも、来てくれてありがとう。楽しんでいってね」
(フロリアンの存在についてや、民の混乱の原因がスーティにあるのではと疑うような発言をした場合)
「......なぜ? なぜ私の安息を奪おうとするの? ようやくフロリアンが私のものになってくれるのよ。ああ、ああ、愛しいフロリアン。どこ?」
ふらりと視線を漂わせると、部屋から出て行ってしまう。追いかけると、フロリアンを連れて地下室へ逃げ込んでいく。
【終の幕】
【NPC】
[脇役]フロリアン(異獣/NSp124) 玉座 存在点:24点 行動点:24
[脇役]スーティ (実践探求の徒/NSp121) 玉座 存在点:8点 行動点:20
[端役]ヴィルヘルム(味方役/p264) 宮廷
[端役]腐りかけたモノ×4(心なきもの/p264) 庭園×2 玉座×2
【壁の華】
ヴィルヘルム:混乱する式の出席者を誘導しにいく。
スーティ:堕落が進み、頭部より姿を見せた角を隠すようにうずくまる。這いつくばりながら、「フロリアン、フロリアン、どこなの...」とつぶやいている。
【場】
庭園:スーティ卿の秘密の地下室。研究者以外は見ることのないであろう薬品棚や機械が並び、濁った液体の中には幾人もの人型が収められている。
が、無残にもすべてのガラスは破られ、貴卿らと目が合うや否やそれらは身を乗り出した。
村で見かけた――溶けた肌に歪んだ骨格、人ならざるモノが、貴卿らに襲い掛かる。
宮廷:ダンスホール。おぞましい人ならざるモノにそこかしこから悲鳴が上がるが、いずこかの騎士が掃討したようだ。人々は混乱のなかにありつつも、命の危険はないと言える。
玉座:庭。スーティ卿はフロリアンの手を引き、今にも村へ駆けだそうとしている。
【絆奏】
人の形をしたモノ:【怒】
スーティを問い詰めるか、問い詰めたあとに追いかけるかどうかで描写が少し変わる。
【口上】
(スーティとフロリアンを追いかけた場合)
「地下へと逃げ込むスーティ卿の背を、貴卿は追う。人一人の手を引きながらとは到底思えない速度で駆け下りるのを追いかけた先は、異常な部屋であった。
聞き覚えのない名前の薬品が並んだ棚、見たこともない機械。そして、壁に沿うように何十と並べられたガラスケース。
液体に満たされたガラスのなかでは、肌を溶かし、曲がった骨を蠢かせ、おぞましい異形が目らしきものをこちらへ向けている。
「ほら、行きなさい、なりそこない! フロリアンを守るのよ、貴女自身を守るのよ!」
スーティ卿は目を血走らせ叫ぶ。そのたびに具現化した剣がガラスを割り、血が飛んだ。
フロリアンは腕を引かれるままに、虚ろな目でその背についていく。
ガラスを割り終えたスーティ卿は、束の間微笑みを浮かべ、地上へ向かってまたも駆ける。
いくつかの異形もそれについていったようだ。」
(追いかけるか、そのまま地下に残るか、という選択肢で場を選ぶ)
(スーティが逃げなかった、追いかけなかった場合)
「突然、悲鳴が響き渡った。優雅な音楽は途絶え、人々の逃げまどう音が響き渡る。
ダンスホールの中心には、村で見かけた――溶けた肌に歪んだ骨格の、人ならざるモノが声ならぬ声を上げて暴れている。ここの異形は他の騎士がなんとかしているが、どうやら地下から上がってきているものと、すでに外に逃げ出したものがいるようである。被害を最小限に抑えるため、貴卿らは武具を具現化し地を蹴った。」
ヴィルヘルムの台詞
「手助け、感謝します! どうかこの地の民を、スーティ様の欲望のままに食い荒らされることのないよう、お力をお貸しください!」
(ヴィルヘルムのこれまでについて言及した場合)「そのとおりです。あのお方を止められなかったのは私の罪......、どうかこの罪ごと、あの忌まわしくも悲しいモノをお切りくださいませ!」
(壁の華)「わかりました、私は民を安全な場所へ誘導いたしましょう。......どうか、あのお方を止めてください。お願いいたします......!」
スーティの台詞
「どうして邪魔するのよ! 私はこの子ともう一度一緒に暮らすの! もう二度と、誰にも、奪わせないわ!」
「フロリアン、どうして、どうして受け入れてくれないの......。私はこんなにも貴女のことを愛しているのよ。どうして、私を一人にするの......」
「また私から逃げるの? また貴女を失わせるの...?」
「ようやく貴女を蘇らせられたのに、ようやくそばにいると誓ってくれたのに......」
フロリアンの台詞
フロリアンははじめこそ変わらぬ美しい姿であるが、ひとたび騎士が剣を向けると姿が一変する。下半身は醜き獣のものとなり、鱗がぼろぼろと零れる。肩からはまったく同じ美しい顔が生え、二つの顔は無垢な赤ん坊のような表情で嗚咽を漏らしている。しかしてその腕は、足は、貴卿らをせん滅しようと空を切るのである。
「はじめまして......。わたしは、フロ、リアン。スーティ様の、このえで」
「スーティ、さま。わたしは、フロリアン。......わたし、わたしは?」
「あ、あああああ、いや、いや、いや! こんなのわたしじゃない! わたしはわたしは!!」
「いたいいたいいたいいたい......。もうやめて、やめて、もう眠りたいの、いや......」
【後の幕】
【口上】
「騎士の攻撃により、フロリアンは地面に倒れ伏す。
獣のごとく醜かった体は次の瞬間にはもとの美しい少女のものとなっている。
眠るように横たわる少女の傍ら、かろうじて這っていったスーティ卿が縋りつくように覆いかぶさるのであった。
「フロリアン。いやよ、いやよ。また私を拒絶するの、置いて行くの」
しばし、こちらもまた幼い少女のような声で泣きすさぶ音だけが周囲に響く。その刹那、貴卿らの前に男が姿を現した。
死者の如き灰白の髪、猫のような金の瞳。軽薄な笑みを口元に浮かべ、朗らかな美声で彼は歌うように話し始める。
「これはどうもお初お目にかかります。わたくしはペトロス・グルーンツヴァイクと申す者にございます。そちらのホムンクルス、わたくしの与えた知識で造られたものでありまして、ようやく完成した至上の一品。わたくしが責任もって、しかるべき場所で活用いたしますので、お渡し願えませんか?」
彼の騎士の名を聞いたことのある者は、彼が「詭弁卿」として密かに語られる人物であると知っているだろう。
彼は悪辣かつ非道な好奇心の塊、彼の思うままに世界が動くことがあれば、そこは言うなれば、地上の地獄であると。」
フロリアンはペトロスに渡しても、渡さなくてもよい。渡さない場合は堕落したものとしてヴィルヘルムが地獄に送ってもよいし、人型に戻り堕落は免れたとしてPCに同行してもよい。
(渡すことを断った場合)
「おや、そうですか? 失礼ながら、貴方方がそのような異形を必要とされるとは思えませんが。しかし深くは追わずにおきましょう。また新たな研究者を探せばよいだけのことにございます。では、わたくしは失礼して」
不気味な笑いをひとつ零して、ペトロスは姿を消す。
スーティ卿はフロリアンから離れようとはしない。ヴィルヘルムは深く息を吸い込み、意を決して剣を抜く。
「スーティ様は、私の手で地獄へ送らせてください。主の不徳を捌くのもまた、近衛に残された最後の使命にございましょう」
「ヴィルヘルム。手を煩わせてしまって、ごめんなさい。やはり貴方は、私にはもったいないくらいの騎士だったわ」
(PCにヘルズガルドの騎士がいればそちらに任せてもよい。いずれにせよヴィルヘルムはスーティ卿の最期を見届ける)
フロリアンは地獄へ送ることができないかもしれない。PC1が引き取ってもいいし、止めをさすのもいいだろう。PLの判断にゆだねる。
PCのその後について語る。
ヴィルヘルムは今後、テオフラス領を統べるようになる。PCに領主がいれば支援を行ってもよいし、遍歴がいれば近衛として残ってもよい。
「こうしてテオフラス領から、重たい空気は消え去った。
それまでと変わらず、この地は豊かで平穏な時間が流れていくことだろう。
新しい領主と城の者だけが、恋に身を焦がし愛に狂った領主のことを記憶に刻んでいくのだろう。
貴卿らは見事、人になりきれぬ哀れなホムンクルスからこの地を救った。
人が貴卿らを語るとき、そこには大いなる逸話が加わるであろう。」
【シナリオについて】
タイトルは、「花は折りたし梢は高し」(欲しくても手に入れる方法がない。思いどおりにならないたとえ。)から。
NPC名からしてホムンクルスかかわってます!というかんじですがRPを楽しんでいきましょうやったね。